世界史の教科書にも掲載されている有名な世界遺産「タージ・マハル」は世界一美しい霊廟と呼ばれています。
霊廟、つまりお墓です。
とても美しい建築物ですが、タージ・マハルは宮殿ではなくお墓なのです。
今回はそんなタージ・マハルの歴史について学び直してみましょう。
タージ・マハルはどこにあるの？
タージ・マハルは首都デリーからは電車で3時間ほどかかるインド北部のアグラという都市にあります。
アグラは16世紀に開かれたムガル帝国の都です。
このためタージ・マハルだけではなく、豪奢な宮廷文化の香りを残す数多くの建築物が残されています。
妻のために建築された愛の結晶
これだけ立派な霊廟ですから眠っているのはその王朝を繁栄させた王様……と思いきや違います。
この霊廟はムガル帝国の皇帝シャー・ジャハーンの最愛の妻であるムムターズ・マハルのものなのです。
彼女は皇帝の三番目の妻ですが、皇帝に最も愛された妻でもありました。
シャー・ジャハーンは彼女を深く愛しており、その寵愛は戦場まで彼女を連れてあるくほどでした。
よほど離れがたい存在だったのでしょう。
しかしムムターズ・マハルは36歳という若さでこの世をさります。
彼女にとって14人目となる子供を出産したことがきっかけでした。
最愛の妃を亡くしたシャー・ジャハーンは深く悲しみました。
そして彼女の遺言でもあった「立派な霊廟を建設しよう」と心に決めたのです。
タージ・マハルの建設には22年の歳月がかかりました。
2万人の職人が白い大理石の霊廟を作り上げたのです。
建設費用は国が傾くほどだったと言われています。
ヒンズー教ではお墓を作ることは一般的ではありません。
輪廻転生が信じられているため、人の魂は永遠なのです。
このためあまりお墓というものが重要視されることはありません。
もちろん皇帝であれば、その権威を誇示するためにお墓が作られることはあります。
しかし、彼女は三番目の妻であり、何の権力も持っていない女性でした。
そんな中、敢えて前例を無視してもシャー・ジャハーンは彼女への愛を示したかったのです。
シャー・ジャハーンはタージ・マハルが完成したあと、愛する妃の霊廟のすぐ近くに
対になるような黒色の霊廟を建設しようとしていましたが
王位を息子に奪われてしまったため、その夢は叶いませんでした。
ムムターズ・マハルに横恋慕していた建築家
タージ・マハルの設計者が誰かというのは分かっていません。
これはインドだけではなくイスラム世界全土から数多くの建築家や工芸家たちが集められ
その集大成として作られたものがタージ・マハルだからです。
誰か一人が責任者として建築を請け負ったのではなく、多くの専門家が携わった結晶です。
そんな建築家の中の一人に、実は密かにムムターズ・マハルに思いを寄せる建築家がいたそうです。
生前からの思いを彼はタージ・マハルの建築に注ぎ込んだそうです。
完成したタージ・マハルの美しさを見たシャー・ジャハーンは彼に褒美を与えようとしますが
彼は「このお墓を完成させられたことだけで満足です」と答えたそうです。
その時、シャー・ジャハーンは彼のムムターズ・マハルへの思いに気がついたのです。
思いに気がついたシャー・ジャハーンは彼の両腕を剣で切り落とします。
愛する妻への気持ちを持つ彼に嫉妬したのでしょうか？
別の説では「あまりの美しさに感動し、二度とそのような美しい作品を作ることができないように」した
ともありますが、いずれにせよ、建設後に腕を切り落とされた人物がいたのは確かなようです。
今は二人で眠っている
現在、シャー・ジャハーンは愛する妻、ムムターズ・マハルのすぐ隣の棺で眠っています。
徹底的な左右対称、シンメトリーな美しさで作られたタージ・マハルですが
この棺が安置されている場所だけは唯一左右非対称の場所となっています。
これは先に納められたムムターズ・マハルの棺と、その横に安置されたシャー・ジャハーンの棺の
サイズが異なるためです。
彼の夢でもあった対になる霊廟は作れなかったかもしれませんが
愛する妻の横で眠り続けることができるのは彼にとって幸せなことかもしれません。
