空の上には、地上とは少し違う季節の訪れがあります。
富士山の初冠雪に冬の気配を感じ、春には日本列島を北上する桜前線を眺める。
そして各地の空港へ向かう途中には
その土地ならではの美しい景色が広がっています。
パイロットとして空を飛ぶなかで出会った
季節の風景と忘れられない空港についてご紹介します。
■富士山が知らせる冬の訪れ
パイロットにとって、冬の到来を感じさせるもののひとつが富士山です。
地上ではまだ暖かさが残る時期でも、上空から見る富士山の山頂には雪が積もり始めます。
その姿を目にすると、「今年も冬が近づいてきたな」と実感し
冬季運航への意識が自然と高まります。
冬の運航では、積雪や路面凍結、気象の急変などに備え
通常以上に入念な準備が必要になります。
しかし、その一方で冬ならではの美しい景色を楽しめる季節でもあります。
北海道や東北上空を飛行していると、一面の雪景色が広がります。
特に夜間は、月明かりに照らされた白銀の大地のなかに街の灯りが浮かび上がり
どこか温かみを感じさせてくれます。
また、夜のフライトでは機内照明が暗くなることがあります。
これは「暗順応」と呼ばれる人間の目の働きに関係しています。
明るい場所から急に暗い場所へ移ると、目が慣れるまで時間がかかります。
万が一の事態に備え、乗務員も乗客の皆さまも周囲の暗さに
目を慣らしておく必要があるため、夜間の離着陸時には客室照明を落としているのです。
コックピットも同様で、夜間飛行中は必要最小限の明るさに抑えられています。
■春の空に広がる桜前線
4月になると、日本列島では南から北へ桜前線が進んでいきます。
国内線を飛んでいると、その移り変わりを上空から感じることができます。
なかでも印象的なのが高松空港周辺です。
空港近くには公渕森林公園やさぬき空港公園があり
桜の季節には鮮やかな景色が広がります。
地上から訪れても美しい場所ですが、上空から眺める春の風景もまた格別です。
もっとも、私たち運航乗務員は離着陸時に景色を楽しむ余裕はほとんどありません。
着陸が近づくと、速度や高度、方位、推力など数多くの計器を確認しながら
滑走路への進入を管理しています。
刻々と変化する状況に応じて機体を細かく調整し
安全かつ安定した着陸を目指します。
桜の季節が終わる頃になると、今度は「メイストーム」と呼ばれる
春特有の強風シーズンがやってきます。
暖かい空気と冷たい空気がぶつかり合い
低気圧が急速に発達することで強風や大雨をもたらします。
そのため、私たちは出発前に最新の気象情報を確認し
先行機からの報告も参考にしながら、安全な運航計画を立てています。
■印象に残る日本の空港風景
日本各地には、機窓からの景色が特に美しい空港があります。
まずおすすめしたいのが女満別空港です。
最終進入時には雄阿寒岳と阿寒湖を望むことができ
特に雪をまとった冬の景色は格別です。
山形空港では、蔵王連峰の迫力ある姿が印象的です。
進入経路の関係で、右側の窓から見ると山が目前まで迫ってくるように感じられます。
松山空港では、瀬戸内海に浮かぶ島々としまなみ海道が織りなす風景が広がります。
穏やかな海と多くの島々が織り成す「多島美」は、この地域ならではの魅力です。
そして宮古空港では、エメラルドグリーンの海と珊瑚礁が迎えてくれます。
特に北風運用時の進入では、島全体を見渡せる絶景が広がり
今でも鮮明に記憶に残っています。
景色の美しさとは別に、特別な思い出を持つ空港もあります。
私にとってその場所は函館空港です。航空大学校卒業をかけた
最後の試験飛行の目的地が函館でした。
無事に着陸し、スポットへ向かう機内で
それまでの努力や緊張が一気によみがえり
胸がいっぱいになったことを覚えています。
今でも函館へ降り立つたびに、教官から厳しく指導を受けた日々や
仲間たちと励まし合った時間を思い出します。
空の旅には、それぞれの人だけの景色があります。
お気に入りの機窓風景や思い出の空港を探しながら旅をしてみると
移動そのものが特別な思い出になるかもしれません。
次に飛行機へ乗られる際には、ぜひ窓の外にも目を向けてみてください。









