かつて航空会社の新人教育は「厳しくて当然」という空気が当たり前のようにありました。
安全運航を担う以上、ミスは許されません。
現在では訓練の進め方も時代に合わせて変化していますが
新人が知識ゼロからお客様の前に立つまでには、多くの学びと緊張の積み重ねがあります。
今回は、元グランドスタッフの経験を踏まえながら、その研修の実態を紐解きます。
■座学から始まる“基礎づくり”の毎日
今よりも少し前、航空業界の研修は「根性で覚えろ」という空気がまだ濃く残っていました。
安全に直結する仕事なので当然ではあるのですが、入社直後の新人にとってはなかなかハードです。
グランドスタッフもまずは約1か月、教室での座学とOJTを通じて業務の基本を叩き込みます。
分厚い教材が配られ、ほぼ毎日テストが実施されるため
研修期間中は学生時代以上に机に向かうことになります。
特に大変なのが航空特有の専門用語です。
世界中の空港には3レター/4レターコードという略号が割り当てられており
航空会社にも同様に2レターや3レターコードが存在します。
荷物タグ、無線連絡、システム入力など、あらゆる場面でコードを使うため、覚えていないと仕事になりません。
新人はまず、自社便が発着する都市のコードを完全に暗記するところからスタートします。
たとえば広島空港の「HIJ」。
覚えにくい人は「HIJは“ヒロシマ・ジャパン”の頭文字!」と声に出して記憶に定着させたりします。
こうした語呂合わせは新人の定番です。
■実機を模したシステムで本格的な訓練へ
基礎知識をひと通り学んだあとは、実際のカウンターと
ほぼ同じ設備を使って操作方法や接客の流れを覚えていきます。
航空専門学校出身者は多少アドバンテージがあるものの
企業ごとにマニュアルも細かく異なるため、結局は誰もが一から覚える覚悟が必要です。
私自身も未経験で入社しましたが、わからないことだらけでも必死に食らいつけばなんとかなるものだと痛感しました。
知識の習得後には筆記試験と実技試験が控えています。
これらに合格すると、いよいよ本番さながらのOJTが始まります。
念願のカウンターに立つ前夜は眠れないほど緊張し、当日は足が震えていたのを今でも覚えています。
■“OJTのお母さん”の存在が新人を鍛える
新人一人には必ず指導役の先輩が付きます。通称「OJTのお母さん」。
安心感がある反面、常に背後でメモを取られていると思うと緊張も倍増です。
接客が終わるたび、小さなミスから話し方の癖まで細かく指摘され
休憩時間にはしっかりと振り返りが行われます。
当時は、研修期間中に涙する新人も珍しくありませんでした。
この濃密な1週間を乗り切ると、晴れて訓練生バッジを外し
一人前のスタッフとしてお客様の前に立つことが許されます。
達成感は大きく、同時に身の引き締まる瞬間です。
■今の研修は“厳しさはそのまま、方法は今風”に進化
現在の現役スタッフに聞くと、昔のように「とにかく見て覚えろ」といった
体育会系の指導はほとんど姿を消したそうです。
噂話として「先輩が横で笑顔のままハイヒールで蹴ってきた」などというエピソードが語られた時代もありましたが
当然ながら今ではそんな指導は完全にご法度です。
ただ、安全運航に関わる部分は今も昔も変わらず厳格で
必要な緊張感はしっかり保たれているとのことです。










