どんなに訓練を積んで経験豊富なベテラン機長であっても、
飛行中にある錯覚に陥ることがあります。
それは「空間識失調」バーディゴと呼ばれる錯覚症状で、
上下左右の間隔を失ってしまい飛行機の姿勢、位置、方向などを
正確に把握できず誤って認識してしまうことがある。
どうしてベテラン機長であっても「空間識失調」になってしまうのか、
その仕組みや理由を見てみましょう。
■いろいろな方向からかかる重力
飛行中、パイロットはいろいろな方向に過重が掛かります。
乗客よりも過重が掛かりやすく、この影響により三半規管にバグが生じて
自分自身と飛行機の位置、姿勢を取り違えてしまうのです。
特に外が見えない雲中飛行や、夜間飛行中に陥りやすく
計器が示している値を信じることができなくなり操縦を誤ったりします。
計器は正常値を示しているのに、「空間識失調」になることで
それらの値と自分の感覚にズレが生じることで、
目で見ているモノとの差を信じられなくなるのです。
実際、「空間識失調」が原因で飛行機が墜落したと考えられる事故は
世界中で発生しており、その件数は少なくありません。
■錯覚にはいろんな例がある
例えば、外が見えない雲中飛行で旋回している時に頭を強く振って、
三半規管に影響を与えてしまうと、正しく旋回できていないと認識してしまいます。
これを「コリオリスの錯覚」と言い、旋回角度を正そうとして
誤った操縦をしてしまうのです。
また、窓の外に見える雲の尾根ラインが飛行機に対して傾いている時、
尾根ラインの方が水平だと勘違いしてしまい、機体の姿勢を把握できなくなったりします。
他にも夜間に空の星を地上の灯と勘違いして、間違った操縦をしてしまうのです。
■着陸時に起こす錯覚は非常に危険
錯覚は上空にいる時だけではなく、着陸時にも起こり得ます。
着陸は飛行機事故の大半を占めており、このタイミングでの錯覚は致命傷になりかねません。
例えば、滑走路の大きさによって機体の高度を誤って認識したり、
滑走路が前後どちらかに傾斜していると、進入角度を間違えたりしてしまいます。
中でも滑走路が日射を浴びているようなときは、滑走路までの
距離や高度を見誤りがちになると言われています。
■錯覚を予防する方法
飛行機に致命的なダメージを与えかねない操縦士の錯覚ですが、
その錯覚を予防するための方法はあるのでしょうか。
一番は計器類の値を信用することです。
「空間識失調」になると計器類の値が信じられなくなるわけですが、
計器にはさまざまな種類がありそれらすべては一度に誤作動をすることは
天文学的な確率を超えることになりありえない事です。
計器の種類として、水平儀、定針儀、高度計、温度計などがあります。
また、これらのどれかが例え故障したとしても、通常どおり飛行できるよう
設計されているのです。
それが分かっていても信じられなくなるのが「空間識失調」ですが、
機長、副操縦士の二人ともが同時に発症する可能性も低いことから、
お互いがお互いをフォローすることも大切です。
晴天であれば、外の景色、各計器類など複数の情報をチェックし、
自分が「空間識失調」に陥っているのではないか、というような
判断をすることも大切な事と言えるでしょう。
様々な情報をチェックすることをクロスチェックといい、
判断を怠らないよに冷静な対応が求められるのです。
飛行機が墜落しました、「空間識失調」でした。
では済まされないのは当然のことです。